災害のあらまし
自動車部品メーカーの工場に勤務する労働者Aと労働者B、労働者Cは、休日に行われた会社主催の行事に参加。朝からソフトボール大会があり、夕方から2次会としてバーべキューという内容のもので、強制参加ではないが経営陣のうち社長と工場長が参加。毎年恒例行事で、費用一切を会社で負担し、工場のほとんどの従業員が参加した。
労働者Aは、工場長からの指名で行事の幹事(世話役)を引き受けていて、平日に代休を取る許可を得ていた。
幹事は、労働者Aと管理部総務課Dの二人で、会場の手配から参加者の管理、大会の運営、バーベキュー機材の手配、仕入れ仕込みから当日の焼き番までを担当。ところが、大会当日三人が負傷を負った。労働者Bは、守備でボールを追いかけている時に転倒し、足を骨折。また、2次会では.労働者Aは鉄板を誤ってひっくり返してしまい、A本人と横にいた労働者Cの二人が火傷を負った。
判断
今回の行事は、会社主催で費用の会社全額負担や経営陣の参加もあるが、従業員が強制参加とされていない以上これを業務とみることは難しく、任意の従業員を対象とした福利厚生とみるのが妥当と判断され、業務外とされた。そこで、労働者Bと労働者Cは行事への参加自体が私的行為となり負傷も業務災害とは認められず、業務外とされた。
しかし、労働者Aは行事そのものが業務とみなされなくても、行事の幹事役となり世話役としての参加で、業務遂行性が認められると判断され、業務上とされた。
解説
また、事業主から強制されているとは、行事が事業場所属の労働者の全員の参加を基本として定期的に行われるものであること、行事の当日は通常の出勤と同様に扱われ、参加しない者については欠勤として取り扱われること、の2つの要件がある。
以上のように、社内行事については、従業員のみを対象とした場合、業務と認められるには、全員の強制参加という打ち出しは必須であると思われる。しかし、行事でも顧客の参加がある場合であれば、一部の従業員の参加でも業務の要素が強くなると推測される。
例えば、営業社員がお客様接待で行う場合や営業目的で行うPR活動などである。
どちらにしても、具体的行事に対する目的、 参加方法、運営方法、費用の負担や従業員の賃金の支払状況なお総合的に判断して業務遂行性が検討されることになる。
また、幹事についての業務遂行性の判断のポイン卜を今回の事例で考えてみたい。
もし仮に管理部総務課Dが負傷した場合であれば、行事の準備、世話自体が自己の職務の一環とみなされ、その行為中の災害は業務災害と判断される可能性が高い。しかし、Aは工場勤務の労働者であったため、Dと同様のことをやっていたとしても業務外と判断される可能性も出てくる。
今回は、工場長からの指名でやっていたこと、代体付与により出勤扱いとみなされたことも加わり、会社からしかるべき指示、命令のもとに行事の世話役をやっていたと判断、自己の職務の一環としてその行事に参加しているとみなされ、業務遂行性が認められたのである。
また、業務災害でもうひとつ注意すべきことは、行事に参加すること自体には業務遂行性が認められても、その個々の行為すベてが業務行為となるわけではないということである。
例えば、本人の私的行為、恣意行為や常軌を逸した振る舞いなどが原因となって災害を起こした場合である。この場合は、 災害と業務の相当因果関係である業務起因性が認められなくなり、業務上の災害でなくなる。
労働者Aの鉄板を誤ってひっくり返したのは単なる不注意であって、ここでいう恣意行為とはみなされず、業務起因性が阻害されることにはならないと判断された。そこで、労働者Aの火傷は、業務起因性が認められ、業務上災害と認定された。