働き方改革の最重要課題と位置付づけられていた「同一労働同一賃金」の実現に向けて、政府がガイドライン案を示しました。安倍首相が「わが国から『非正規』という言葉を一掃することを目指す」と強調していたとおり、踏み込んだ内容となっています。今後このガイドライン案をもとに労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法を改正し、2019年度の施行を目指す方針です。現時点では「案」であり法的な拘束力はありません。ただ、賃金制度の見直しは簡単にはできるもおんではありません。ガイドライン案の内容をふまえて今からでも検討を始めていきたいと思います。
「不合理な格差」が問題
今回のガイドライン案は、同じ企業内で働く正社員と非正規労働者との間にある格差を解消していこうというものです。
同一労働同一賃金といっても、同じ業務をおこなうすべての労働者を同じ賃金にすべきということではありません。「不合理な格差」を禁止するというものです。
抽象的な説明ではダメ
正規社員※と非正規労働者※は将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」という主観的・抽象的説明では足りず、・・・(中略)・・・不合理なものであってはならない。
※正社員=無期雇用フルタイム労働者、非正規労働者=有期雇用労働者。パートタイム労働者・派遣労働者
「役割期待が異なる」という抽象的な言い訳は許さないということです。
基本給は、勤続年数に応じて支給する方法や、能力あるいは成果に応じて支給する方法などがありますが、同じ勤続年数であれば同じ「勤続給」、同じ能力であれば同じ「能力給」というように、正社員と非正規労働者で差をつけず同一の支給にしなければならないと明言しています。
ガイドライン案では、①基本給、②賞与・手当、③福利厚生、④教育訓練・安全管理の4つのテーマに関して基本的な考え方を示し、典型的なものについては具体例をあげることで、いかなる待遇差が不合理か不合理でないか、企業が判断するうえで参考にできるものとなっています。
特徴的なものを抜粋して表にまとめました。
勤続給は格差がわかりやすい
能力が同じかどうかはわかりずらい面がありますが、勤続年数が同じかどうかは迷う余地がありません。「同じ勤続年数なのになぜこんなにちがうのか」などは早急に対応が必要になるでしょう。
一方、能力や成果に応じて支給する賃金を修正する場合は、支給基準や評価制度もあわせて見直すなど、簡単にできるものではありません。不合理な格差が生じていないかどうか早めに検討を始めた方が良いでしょう。
非正規にも賞与を
賞与については、会社の業績への貢献度が同じなら正規・非正規にかかわらず同一支給をすべきとし、「貢献等にかかわらず正社員には一律で支給しているのに、非正規労働者に支給しないのは問題」と例示しています。
非正規労働者の意識が変わる
基本的な考え方 | 問題となる例・ならない例 | |
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基本給 (職業経験・能力に応じて支給する場合) |
正社員と同一の職業経験・能力を蓄積している非正規労働者には、職業経験・能力に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない職業経験・能力に一定の違いがある場合は、その相違に応じた支給をしなければならない | 問題とならない例 定期的に職務内容や勤務地変更がある正社員の総合職Xは、管理職となるためのキャリアコースの一環として、新卒採用後の数年間、店舗等において、職務内容と配置に変更のない非正規労働者Yのアドバイスを受けながらYと同様の定型的な仕事に従事している。会社はXに対し、この定型的な業務における職業経験・能力におうじることなく、Yより高い基本給を支給している。 |
問題となる例 基本給について労働者の職業経験・能力に応じて支給している会社において、正社員Xが非正規労働者Yに比べて多くの職業経験を有することを理由として、Xに対して、Yよりも多額の支給をしているが、Xのこれまでの職業経験はXの現在の業務に関連性を持たない。 |
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基本給 (勤続年数に応じて支給する場合) |
正社員と同一の勤続年数である非正規労働者には、勤続年数に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない勤続年数に一定の違いがある場合は、その相違に応じた支給をしなければならない。 | 問題となる例 有期雇用労働者に対し、勤続年数について当初の雇用契約開始時から通算せず、その時点に雇用契約期間のみの評価により支給している。 |
賞与 (会社業績への貢献に応じて支給する場合) |
正社員と同一の貢献である非正規労働者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない貢献に一定の違いがある場合は、その相違に応じた支給をしなければならない。 | 問題となる例 正社員には職務内容や貢献等にかかわらず全員に支給しているが、非正規労働者には支給していない。 |
役職手当 (役職の内容・責任の範囲・程度に対して支給する場合) |
正社員と同一の役職・責任に就く非正規労働者には、同一の支給をしなければならない役職の内容・責任に一定の違いがある場合は、その相違に応じた支給をしなければならない。 | 問題となる例 正社員Xと同一の役職名(例:店長)で役職の内容・責任も同一である役職に就く非正規労働者Yに、Xに比べて低額の役職手当を支給している。 |
精皆勤手当 | 正社員と業務内容が同一の非正規労働者には、同一の支給をしなければならない。 | 問題とならない例 欠勤についてマイナス査定をおこない、処遇反映をおこなっている正社員には精皆勤手当を支給するが、欠勤についてマイナス査定をおこなっていない非正規労働者には、マイナス査定をおこなっていないこととの見合いの範囲内で、精皆勤手当を支給していない。 |
通勤手当・出張旅費 | 非正規労働者にも正社員と同一の支給をしなければならない。 | 問題とならない例 採用圏を限定していない正社員については、通勤手当は交通費実費の全額支給をしている。他方、採用圏を近隣に限定している非正規労働者が、その後本人の都合で圏外へ転居した場合には、圏内の公共交通機関の費用の限りにおいて通勤手当の支給をおこなっている。 |
食事手当 | 非正規労働者にも正社員と同一の支給をしなければならない。 | 問題となる例 正社員には高額の食事手当を支給し、非正規労働者には低額の食事手当を支給している。 |
慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給保障 | 非正規労働者にも正社員と同一の付与をしなければならない。 | 問題とならない例 慶弔休暇について、正社員Xと同様の出勤日が設定されている非正規労働者Yに対しては、正社員と同様に付与しているが、週2日の短日勤務の非正規労働者Zに対しては、勤務日の振り替えでの対応を基本としつつ、振替が困難な場合のみ慶弔休暇を付与している。 |
病気休職 | 無期雇用のパートタイマーには正社員と同一の付与をしなければならない 有期雇用労働者にも、労働契約の残存期間をふまえて付与しなければならない。 |
問題とならない例 契約期間が1年である非正規労働者に対し、病気休職の期間は契約期間の終了日までとしている。 |