近年、最低賃金の大幅な引き上げが続いています。従業員の給与は最低賃金をクリアしていますか?

まだ最低賃金とは開きがあると思っていても、この上昇率ですからいつのまにか下回っていたということも起きかねません。いま一度確認しておきましょう。ただ、最低賃金をチェックする場合、手当はどこまで含めていいのか、月給制の場合はどのように計算するのかなど、わかりにくい点もあります。ここでは、最低賃金についてよくある疑問をまとめました。

Q 通勤手当を含めて最低賃金以上になっていれば大丈夫?

 最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。最低賃金を計算する場合は、実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものとなります。

【最低賃金の対象とならない賃金】

①臨時に支払われる賃金(結婚手当など)

②1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)

③所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)

④所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)

⑤午後10時から午前5時までの間に支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)

⑥精皆勤手当、通勤手当、家族手当

厚生労働省「必ずチェック最低賃金」より
これを図であらわすと右上のようになります。

基本給のほかに役職手当や住宅手当などの諸手当は含めて計算してよいのですが、所定内給与の中でも「⑥精皆勤手当、通勤手当、家族手当」の3つは除外しなければなりません。

「住宅手当」は含めるのに「家族手当」は除外するという点が間違いやすいポイントです。一定の住宅手当は、割増賃金を計算する際は計算の基礎に含めないのですが、最低賃金を計算する際には含めることになっています。

Q 固定残業代を含めて最低賃金以上になっていれば大丈夫?

「固定残業手当」は右上の図で言うところの「諸手当」ではなく、実質「③時間外勤務手当」ですから除外しなければなりません。例えば「営業手当」などの名称で支給していても、実質的には固定残業代であるという場合も除外しなければなりません。

Q 最低賃金は時給制の人だけ?月給制の人には関係ない?

最低賃金は平成14年度より日額表示が廃止され、時間額表示のみとなりましたが、時給制の労働者だけに適用されるものではありません。

月給制の人でも、時間当たりに換算したときに最低賃金を下回る場合は違法となります。

近年、右のグラフのように最低賃金の大幅な引き上げが続いているため、注意が必要です。時給制の場合は最低賃金を下回っていることに気がつきやすいのですが、月給制の場合は気がつきにくいものです。特に新卒初任給などは金額も低く、うっかり最低賃金を下回ってしまう可能性もあります。

また、手当が多いために手取り額が多くなっている場合も気がつきにくいと言えます。

手当には最低賃金の計算に含めるものと除外するものがあります。

月給制の人が最低賃金を下回っていないか計算する方法は以下のとおりです。

【最低賃金のチェック方法(月給制の場合)】

月給÷1ヶ月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)

計算例《東京都で働くAさんのケース》

年間所定労働日数:250日

1日の所定労働時間:7時間30分

東京都の最低賃金:958円

基本給
120,000円
職務手当
25,000円
通勤手当
5,000円
時間外手当
35,000円
合計
185,000円

①最低賃金の対象とならない賃金を除きます。

185,000円―(通勤手当5,000円+時間外手当35,000円)=145,000円

②この金額を時間額に換算し、最低金額と比較します。

145,000円÷((7.5時間×250日)÷12か月)= 928円 < 958円

最低賃金を下回り、違法となります。

Q 最低賃金には2種類ある?

ニュースなどでよく報道されているのは、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」です。このほかに、特定の産業に定められた「特定最低賃金」(昔の「産業別最低賃金」)があります。「特定最低賃金」は、都道府県ごとに定められている業種が異なります。例えば福岡県の場合、「輸送用機械器具製造業」「総合スーパー」など10業種に特定最低賃金が定められています。

「特定最低賃金」が定められた業種の場合は、「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」のいずれか高い方の賃金をクリアしている必要があります。ただし、その業種で働いていても、主に清掃や片付けの業務をしている人のように基幹的業務以外の人など、特定最低賃金の対象から除外されている人もいます。その場合、手続きは必要なく、地域別最低賃金が適用されます。

Q 障害者や学生アルバイトは最低賃金を下回ってもいい?

最低賃金は、事業場で働くすべての労働者に適用されます。臨時社員・パートタイマー・アルバイト・嘱託などの雇用形態には関係ありません。ただし、一部、最低賃金の減額特例が認められる場合もあります。

【最低賃金の減額特例の対象者】

A.精神または身体の障害により著しく労働能力の低い人

B.試の使用期間中の人

C.基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている人のうち厚生労働省令で定める人

D.軽易な業務に従事する人

E.断続的労働に従事する人

これらに該当するからと言って当然に最低賃金を下回る賃金が認められるわけではありません。監督署に申請書を提出し、労働局長の許可を受ける手続きが必要です。許可を受けずに下回った場合は、最低賃金法違反となります。

宿直などは「E.断続的労働」と認められることがありますが、事前に労働基準法にもとづく許可申請が必要です。

Q 試用期間や見習い期間中は最低賃金を下回ってもいい?

先ほどの「減額特例」の対象者に「B.試の使用期間中の人」とあるとおり、減額特例の許可が下りれば最低賃金を下回ってもかまいません。ただし、試用期間の減額特例が認められるケースはかなり限定されていて、あまり一般的ではありません。 見習い期間中は「減額特例」対象者 C. に該当すると思うかもしれませんが、 C. は職業能力開発促進法24条1項の認定を受けておこなわれる職業訓練で、されに細かく限定されています。

菓子職人や調理師、美容師などの業界では見習い期間中は最低賃金が適用されないと誤解している経営者も見受けられます。減額特例に該当するかどうかをよく確認する必要がありますし、許可申請も必要です。

Q 違反するとどうなるの?

仮に、労働者と合意して、最低賃金額より低い賃金で契約したとしても、それは法律によって無効となり、最低賃金で契約したものとみなされます。

監督署の調査が入った場合、最低賃金は必ずチェックされる項目です。最低賃金額を下回る金額しか払っていない場合は、さかのぼって差額を支払わなければなりません。賃金請求権の消滅時効は2年ですから、最大2年分をさかのぼって支払いを命じられる可能性があります。 差額が支払われない場合、罰金(50万円以下)も定められています。 違反を繰り返したり、是正したと虚偽の報告をするなど。、悪質な場合は送検されることもあります。